ピーエスの取り組み - 過ぎたるは及ばざるに劣る

伝統食

その29. 「ミルク文化、コメ文化」

生理学博士 久間英一郎

この秋、縁あってヨーロッパを旅する機会を得ました。今回は、その中のアイルランドとイタリアの自然と食文化について書きたいと思います。

私が行ったのは、アイルランド西岸の都市ゴールウェイから北西へ車で約二時間の町。地図と雨と暗闇と格闘しながらやっとの思いでたどり着くと、道端 でちょっと丸く色っぽいお尻とライトに青白く輝く眼を持った動物、そう羊の歓迎を受けたのにはびっくり。翌日、周りを見渡すと絶句。荒涼たる山々、大地。 山の頂上付近まで石灰岩がむき出しに点在しているのかと思いきや、これまた羊なのです。草は短く点在し、木々は低く風にあおられ、湖はあくまで神秘的、耕 地はどこにも見あたりません。この悠々たる様は、まるで時の流れを忘れているかのようでした。このような地方では、牧羊(牛)以外は成立し得ないのでしょ う。

出された食事も環境を反映して、ミルクにチーズにヨーグルト。ハム、ソーセージ、ベーコン、卵。固いパンにバター。コーヒーや紅茶にたっぷりの砂糖 とまたミルク。サラダドレッシングもこってりとミルキー。まさしくミルク文化なのです。でも近くに漁港があったせいか魚貝類も多く、名物黒ビールと共に楽 しませてくれました。当地は確かにミルク文化ではありますが、ミルクをそのまま飲むというより、チーズやヨーグルト(紅茶も含めて)など、発酵食品として 摂っている点、さらに、日本のように精白パンではなく未精白パンが多かったことがビタミン、ミネラル、食物繊維それに腸内細菌に好影響を与えています。

これが数千年を越えて培われた当地の食文化であり、自然なのです。幾多の歴史的苦難を越えてきた辛抱強い国民性の源がここにあるような気がしました。

次に一転、南国イタリアへ。ナポリからローマに向かう列車の車窓からの風景は、まさにイタリア食文化を象徴するものでした。まず圧倒的に多かったの は、南国の陽光をいっぱい浴びたオリーブ、ブドウ、オレンジなど。次に小麦、さらに牧牛。都市近郊ではハウス野菜。これに加えて北部ポー川流域での米。地 中海の魚貝類。これらがイタリアの伝統的なパスタ、ピザ、リゾット、ワインの原材料となり、また陽気で元気なイタリア人気質の元となっているのです。

特筆すべきは、イタリアもミルク、バター、チーズなどをたっぷり使うミルク文化ではありますが、アイルランド同様、発酵食品として摂っている点、さ らにそのミルクとバランスが上手くとれているオリーブ油の質が素晴らしく、またワインやビネガーを上手に組み合わせている点も実に素晴らしく完成度の高い 料理といえると思います。さらにイタリアの素晴らしい点は、食料の自給率の高さです。国を守ることは人を守ること。人を守ることは食を守ること。我々日本 人もイタリアにしっかり学ぶ必要があります。

今回の旅で改めて思ったことは、「人は自然の恵みの中で生かされている一因子に過ぎない。その自然を構成している他の因子と共存して(食して)生きることが自然なのだ」ということです。

我が日本は、高温多雨、四方海からして、米、野菜、ミソ汁、小魚をベースとした伝統的な日本料理に立ち帰ることが我々にとっての自然だということを認識して、健康づくりに役立てて欲しいものです。

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