ピーエスの取り組み - 過ぎたるは及ばざるに劣る

伝統食

その51.『伝統食』の復権が日本を救う(下) 伝統食を残すことは日本人の使命

生理学博士 久間英一郎

前回は、ヒトの「食性」や自然環境に従って食を選ぶことが健康への道であり、日本人は伝統食(和食)に戻ることが必要であると書きました。

まず、伝統食は圧倒的に健康に良い(だから「伝統食」になり得た)のです。欧米食と伝統食との決定的な違いは、脂肪の質にあります。例えば、牛乳か らできたバターは加熱すると溶け、冷やすと固まります。牛の体温は40℃前後と言われ、ヒトの体温は36℃台ですので、高い体温で溶けていた脂肪を低い体 温であるヒトの体内に入れると固まりやすく(血栓のリスクを上げる)、これが心筋梗塞・脳卒中・動脈硬化・高血圧等の生活習慣病の原因になったりするので す。逆に、ゴマ・大豆等の植物性脂肪や魚の脂肪は、体内の脂肪を溶かして掃除する働きがありますので、大変な違いです。

また、伝統食に欠かせないイモ・豆・ゴマ・根菜類・海藻類は、ビタミン・ミネラル・食物繊維の宝庫で、美容効果をはじめ便秘・肥満・高血圧・糖尿病・ガン等の予防に大いに役立ちます。これに発酵技術が加わると、さらにその力が高まります。

このように、伝統食は欧米食に比べてはるかに健康的であるため、35兆に迫ろうとする国民の医療費を大幅に削減することも可能なのです。

さらに、食の欧米化は子供たちに大きなツケを残しています。生活習慣病の若年化に加え、ヒトとしての機能低下です。欧米食は軟らかい食物(ハンバー グ・オムレツ・プリン等)が多く、子供たちが噛まなくなりました。咀嚼回数の減少は「あごの未発達→歯並び悪化→咀嚼力の低下」を招いたり、「顔面の筋力 低下や目の水晶体の調節困難→視力の低下」も招くと、元・宮崎大学教授の島田彰夫博士は指摘しています。

加えて、男子の精子の激減と女子の生理不順がまた心配です。欧米食や加工食品・輸入食品の増加、環境ホルモンの激増等による未来の日本を背負う子供 たちの機能低下は、日本人の劣化につながるのです。筆者が一番心配するところです。これも伝統食に戻ることの重要性を教えています。「小児には徳育より も、知育よりも、体育よりも、食育が先」(村井 弦斎)なのです。

昔から「健全な精神は健全な身体に宿る」と言いますが、伝統食に戻ることは心(精神)にも良い影響を与えます。長野県旧真田町(現・上田市)で教育 長を務められた大塚貢先生は、非行・登校拒否等で荒れた学校をパン食から米飯給食に変えることにより、そして校内を花でいっぱいにすることによって見事に 非行ゼロ、おまけに学力向上も実現したそうです。

また、伝統食は環境にも好影響を与えます。米は麦に比べて単位面積当たりの収穫量も多く、また水田が維持されることは地球温暖化・CO2対策にも、 そして地下水の安定にも繋がります。さらに肉食を減らすことも環境対策に役立ちます。牛が吐き出すメタンガスにおいては、炭酸ガス(CO2)の56倍の温 室効果があると指摘されていますので、牛を減らすことも地球環境に役立つのです。

このように、伝統食に戻ることは単に健康に良いだけでなく、日本人が日本人としてのアイデンティティーを磨き、日本文化(魂)を守ることにも通じる のです。欧米化した日本人が世界のお役に立てるでしょうか? いや、日本人としての文化を守り育てている日本人こそ世界のお役に立てるはずです。

ネイティブアメリカンは、民族にとって重要な決断をする時には"7代先の子孫にどう影響が出るか"を考えて決めるそうです。私たち日本人は、子供に 何が残せるのか? 1,000兆の借金と伝統食の崩壊を残してしまってよいのか? せめて伝統食を復権させ、守り育てていくスベを残したいものです。筆者は残りの人生をこれに捧げる覚悟である。

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