ピーエスの取り組み - 過ぎたるは及ばざるに劣る

血圧

その114.高血圧の基準値は「年齢+90」が一番よい 無理に下げると認知症を招く

生理学博士 久間英一郎

 血圧について私は7年前の本誌Vol.93 ('15年3月)【その79】に「血圧は薬で無理に下げない方がよい」と書きました。その冒頭で次の様に書いています。
 「国の最近の健康行政の最大の関心事は認知症対策だそうです。その話を聞いてすぐ浮かんだことは、『降圧剤の乱用を止めること』でした。なぜなら歳を重ねると血流が悪くなるので血圧を上げることによって新鮮な血液を脳に上げようとしているのに薬で下げてしまったら脳に血液が届き難くなり認知症にならざるを得ないからです。」
 今、高血圧基準値の引き下げも手伝って高血圧患者は益々増加し、認知症も激増。2025年には高齢者の5人に1人は認知症になると推定されているほどです。
 ですから、私は以前から講演会などでも「高血圧の基準は年齢+90が一番よい」と主張してきたのです。
 そんな折、週刊ポスト2022年1月1.7号で、私と同様の見解が臨床医によって発表されましたのでご紹介します。サン松本クリニック院長の松本光正先生です。
 先生は、50年間で10万人以上の患者を見てきた経験から次のように断言します。「心臓病の既往歴がある人や、上の血圧が200㎜Hgを超えている人以外は、過度に血圧を気にする必要はありません。患者さんには『年齢+90』で収まるなら問題ないと伝えています」と。
 先生は続けます。「2000年前後に高血圧のリスクに対する認識を改めるのに十分なエビデンスが出たわけではないのに、なぜかごく短期間のうちにどんどん基準が下げられてきたのです。基準値が10下がるたびに、およそ1000万人が新たに"患者"になっています」
 そもそも、なぜ血圧は高くてはいけないかに現代医学は、「脳卒中の危険性」と主張しています。
 先生も、以前は、「血圧は基準値内に収める」治療をしていたのですが、ある時疑問を抱いたという。
 「2000年以降になると、引き下げられた基準で血圧をコントロールしてきたのに、脳卒中になる患者が相次いで、『あれ?』と思ったんです。そこで、むしろ血圧を下げたから脳卒中になったのではないかと考え、さまざまな研究論文を調べたところ、疑念はますます強まりました」と言う。
 脳卒中には、脳梗塞と脳出血・くも膜下出血の三つがあり、発症のしくみが異なる。「脳出血やくも膜下出血は血圧が上がって細い血管が破れることで起きますが、脳梗塞は、血管が詰まって起きます。血管が詰まりかけてくると、体は血圧を上げて血流を良くし、血栓を押し流そうとします。そこで血圧を下げてしまうと、ますます詰まりやすくなる。血圧を下げれば脳出血やくも膜下出血は防げますが、今の脳卒中患者の8割近くが脳梗塞です」
 先生によると、多くの医師は、「高血圧だから脳梗塞になる」と勘違いしたまま、患者の血圧を下げて脳梗塞を引き起こしているため、「医師が脳卒中にしているようなもの」だという。
 これには戦後の食生活の変化が関係する。「戦後すぐの世代は栄養状態が悪かったため、血管がもろく、破れやすかった。だから、脳出血、くも膜下出血が多く、『高血圧で脳卒中になる』というイメージが広まった。
 しかし、今は栄養状態が良くなったため、血管が高血圧に耐え、破れにくくなった。それなのに無理に血圧を下げるのは昭和の時代で思考が停止しているのではないかと思います」むしろ、高齢者には血圧を下げ過ぎることに注意すべきと警告する。
 実際、長年先生が診ていた80歳の女性は、足腰が弱ったため、家の近くの病院に転院し、血圧を下げる治療をした所、娘から「母が一日中ぼーっとしている」と、相談が寄せられ、認知症の初期症状が窺えたので血圧を下げる治療をやめたら、しばらくして元気になったという。
 同様のことが老人ホームでも起きていて、「医師が無理に(血圧を)下げるので頭がふらふらしている入居者が多い」そうだ。
 くどいようだが、歳をとると血管が硬くなり血流を上げるため血圧が上がるのは当然のこと。これを無理に下げることが問題。真夏にエアコンで下げ過ぎた部屋にはいたくない心理と同じことだ。
 以上から、先生は、「ある時の血圧だけを見て『高い』『低い』ということ自体おかしいのです。『年齢+90』の範囲内なら、気にしすぎる必要はありません」と繰り返す。
 塩分摂取もあまり気にする必要はなく、むしろ、体重管理やストレス管理をしっかりとと忠告します。
 以上の視点は、今後の認知症対策の最重要課題だと、私は考えております。

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