ピーエスの取り組み - 過ぎたるは及ばざるに劣る

伝統食

その50.『伝統食』の復権が日本を救う(上) "食性"を大切にすることが健康への道

生理学博士 久間英一郎

当コラムも今回で50回を迎えます。長いご縁をいただき有難うございます。今回はこれまでのエッセンスを二回に渡って述べたいと思います。

食と健康を語るに一番大切なことは、以下をしっかり確認することです。
(1)ヒトは哺乳動物である。(2)ヒトの体は食物から出来ている。(3)その食物は自然環境の産 物であるがゆえにヒトは自然環境と共存しなくては生きられない。(4)そのようにして、どの民族も永々とDNA(遺伝子)を子孫に引き継ぐのである。
さて、その観点で戦後の日本の食生活の激変ぶりを見ると様々な問題点が出てきます。即ち、戦後、栄養改善運動として推進された栄養指導は、伝統的日本食を否定し、脂肪、牛乳、肉等々を「欧米並み」に摂取するように求めたものでした。
その結果、昭和30年の栄養摂取量を100とすると、平成10年は、タンパク質は109(うち動物性は171)、脂肪は271(うち動物性は348)、炭 水化物は64という結果に僅か50年足らずでなったのです。つまり、「米やイモを食べなくなって脂肪、乳製品、肉類を多く食べた」ことを示しています。
この激変は、周知のごとく日本人の健康上、大きな問題をもたらしました。ガン、心臓病、脳卒中等の生活習慣病や高血圧、肥満、糖尿病、アレルギー、骨粗鬆症、加えて視力の低下、咀嚼力の低下、虫歯の増大、生殖能力の低下、高体格、低体力等々。
つまり、「欧米並み」を目指した"栄養改善運動"は皮肉にも病気の「欧米並み」を実現する結果となったのです。
なぜか?・・・ それは、ヒト本来の食性、日本民族の食性を無視した食生活だったからです。
ヒトは、歯の構造(穀物用の臼歯が多く、肉食用の犬歯が少ない)からいっても、爪の形(ヒトは平爪、肉食動物は鉤爪)から見ても、ヒトの食性は明らかに穀 菜食動物なのです。加えて我々日本人は、温暖多雨の自然環境に恵まれ、米も麦も野菜もイモも豆もたくさん穫れ、また高温を利用した発酵食品(味噌、醤油、 酢、納豆等々)、さらに四方海を利した魚介類等々、米を中心とした実にバラエティー豊かな食文化を展開してきたのです。その証拠に日本人はアミラーゼ(澱 粉分解酵素)活性が高く、米食が日本人には一番自然なことを教えています。
一方、欧米の自然環境は、一般的に寒冷少雨の地域が多いので作物が育ち難く牧草にするしかなく、そこで止むなく牛や羊の放牧、そこからとれる肉、牛乳、バ ター、チーズ、ヨーグルト、ハム、ソーセージ。所々でとれる小麦も水分が少ないのでパン用となります。パンは米に比べて水分が少なく喉を通り難いので、バ ターや牛乳で喉の通りを良くする。このようにして、自然環境の制約を克服する形で欧米独自の食文化を作ってきたのです。その結果、欧米人はラクターゼ(乳 糖分解酵素)活性が高く、乳製品食に対応できる民族に進化してきたのです。
このようにヒトは、持って生まれた身体構造や能力によって、そして生活する自然環境にによってその食性は決まってきます。従って、米DNAを持った私達が 肉、牛乳等をこれまでのように食べ続けることは自然の法則、食性に反することであり、その矛盾こそが様々な「病気」となって現れていることに気がつかなけ ればなりません。
外国の栄養学者がよく言うそうです。「日本は世界に冠たる食文化を持ちながらいとも簡単に捨て去り、欧米食を受け入れてしまった。信じられない」と。
また、アメリカは1977年、激増する病人の原因を調査した有名な「マクガバン報告」を発表。その原因が食物の間違いにあったこと。そして、理想的な食事 は戦前の日本の食事に近いものとしたのです。この報告に衝撃を受けたアメリカでは、それまでの食事への反省が広がり、今日ではガンの発症率が低下傾向を示 しています。

私達は今、これまでの食生活を反省し、私達が捨てかけている伝統食、外国が評価する伝統食を復権させようではありませんか。その責務があると信じます。

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