ピーエスの取り組み - 過ぎたるは及ばざるに劣る

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その82.予防は治療に勝り、 養生は予防に勝る。

生理学博士 久間英一郎

 今回は少し堅い話になるかもしれませんが、中国伝統医学が教える予防と治則(治療原則)について、皆様の参考になる所を書いてみたいと思います。
 中国伝統医学には、古来、「未病を治す」という言葉があります。"未だ病まざるを治す"という意味で、予防の大切さを教えています。
 中国伝統医学の古典「黄帝内経素問」に次の様な記述があります。
 「聖人はすでに病んだものを治さずして、未だ病まざるを治す、すでに乱が起こってしまってから治めるのではなくて、未だ乱が起こる前に治めるのである。・・・そもそも病気になってしまってから医薬に頼ったり、戦乱がすでに起こってしまってから治安しようとするようなことは、例えていえば、喉が渇いてから井戸を掘ろうとしたり、戦争になってから武器を鋳造する如きものであり、そんなことでは、やはり遅過ぎないであろうか、いや遅過ぎるのである」。まさに至言であります。
 また「早老の原因は養生を知らないことにあり」として、飲食に節度を持ち、起居(活動と休息)には規律を持ち、みだりに過労はしないようにすると、肉体と精神は充実し長生きできるが、それに反すると五十歳で衰えてしまうと教えています。
 「傷寒論」では、病後の水の飲み方についての記載があり、「水を飲んでも多く飲めない者は、与えるべきでなく、大渇(大いに喉が乾いて)して飲水を欲する者には、やはり証(治療の基になる診断)に基づいて与えるべきであって、与え過ぎてはいけない」と提起しています。これは今日、病後でなくても大いに参考にすべきことです。
 以上、二つの古典は、二千年前後の昔に書かれた本とはいえ、今でも光り輝く、まさに古典といえるものです。
 元大分大学教授、飯野節夫博士は、「予防は治療に勝り、養生は予防に勝る」と断言しています。
 次に治則(治療原則)について。病気には必ず症状と症状をつくり出す本質があるが、まず大切なことは、「病を治すには必ず本を求む」すなわち、病気を治すためには、必ず病気の本質となるものを探らなければならない、という意味です。
 例えば、風邪で38度発熱したとしましょう。薬で38度という症状だけを解熱したとしても、本質的な養生をしないと風邪は治らず、下手したらこじらすだけになることを皆様よくご存知かと思います。
 そこで、うがい、手洗い、氷枕、加温等をして邪気をとり除いたり、少量のバランスの取れた食事や充分の睡眠を与えたりするでしょう。そうした本質的な養生が重要なことを教えているのです。
 また、治療にあたっては、地域、時節、人により治療が異なることを重視しなければならないということです。
 まず地域が異なると、温度、湿度が異なり、生活習慣、食生活も異なる。この違いが人体に少なからず影響を与えるので、この点を留意する必要があるということです。
 日本は湿度が高かったり、冷たいもの、生のものを食する傾向が強いことから、特に〝体を温める"ことを常に治療の基本に置かなければなりません。
 次に日本には四季があり、それぞれに特徴があり、それが人体にかなりの影響を与えます。これもしっかり考慮に入れなければなりません。夏と冬で全く同じ治療法でよい訳はないのです。
 最後に人によって治療法が違う、すなわち個人差があるということを考慮に入れなければならないということです。人はそれぞれ親から受け継いだDNAが違い、さらにその後の生活環境、仕事、人間関係等が全く違い、同じ体質をもつことはあり得ないのですから、治療の際は必ず考慮されなければならないのです。

 こう見てくると、今日の医療を象徴する「コンピューター数字による3分間診療」で充分な治療を期待するのはコクでしょう。だからこそ、"予防と養生"が必要なのです。

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