ピーエスの取り組み - 学術論文

10.8478 ハツカネズミの移植癌に対する不溶性のゼラチン粉末による抗移植性の免疫

榎木義祐

医学と生物学 第100巻第2号 1980年2月10日

すでに報告1-4)したように、ハツカネズミにゼラチンまたはその近縁物質を注射しておくとエールリッヒ癌の移植が困難に なった。ゼラチンの種類によって効果に差があった。作用は薬理学的効果やマクロファージ誘発によるものではない。ホルムアルデヒドでアミノ基をメチレン重 合すると効果が増強された。それらはすべて水溶液として注射されたが、今度水に水溶性の細粉として皮下に注入され、そののち生体から自然に排除されたのち 移植癌に対して抗移植性の効果を生じたので報告する。

材料と方法

市販試薬ゼラチン20%水溶液を140 °C 5分間滅菌後10 °Cに冷却、ブロック状に切り、10% ホルマリン水に入れ常温で48時間作用させゲル化させた後細切し流水中で3日間水洗いし過剰のホルマリンを除去した後加蒸乾燥し、ボールミルで細粉とした 200メッシュ篩通品を用いた。乾燥末中のホルマリン残量は, 3.36 mg/1000 mg 。このゼラチン粉末は水で膨潤するが常水中で100 °C 30分加熱しても溶解しない。ハツカネズミの臀部皮下に1匹宛30 mg注入するとこれを取り囲んで2週間目に2-4 mm の厚さの肉芽を形成する。肉芽は1ケ月後に皮膚に面した所で自壊して皮膚表面より乾燥した原型の細粉のまま次第に排出される。重合していないゼラチン粉末 やホルマリン水では肉芽は全く形成されない。上記水溶性ゼラチン粉末200メッシュ篩通品を注入の便宜上滅菌水に混ぜ30 mg 宛ハツカネズミ(ddY)の臀部皮下に太い針のついた注射器で注入した。1ケ月後肉芽にとりかこまれ肉芽の皮膚に接した部分が自壊し皮膚表面より溶解吸収 されることなく原形のままの粉末が数日かけて排出されたあと反対側の臀部皮下にエールリッヒ癌細胞を5 x 106個移植した。

結果と考察

結果は下記のとおりであった。すなわち移植した動物は実験群7匹のうち癌細胞移植がつかなかったもの6匹。対照群は7匹中1匹であった。

生体に注入するとき水と混ざるので膨潤するが生体では再び脱水され乾燥した原形のままの細粉が溶解吸収されることなく、また組織親和性もなく生体より排出された後もその後のエールリッヒ癌細胞移植に対して抗移植的な効果を残した。

この実験は大阪医科大学微生物学教室で行った。

  1. 榎木義祐:ハツカネズミの移植癌に対するゼラチンならびにその重合物による抗移植性の免疫 本誌 82(2): 81-83 1971
  2. 榎木義祐,中田高秀,西里枝久子: Ehrlich腹水癌における実験的免疫現象 本誌 87(5): 311-312 1973
  3. 榎木義祐, 西里枝久子,中田高秀: ハツカネズミがEhrlich癌に対して実験的獲得性に抗移植性の免疫を作る現象に与える各種マクロファージ誘発物質の免疫誘導力の比較 本誌 87(5): 313-314 1973
  4. Yoshisuke Enoki: A study on allergic reaction of cancer and its application to transplantation immunity in experimental animals. Jinsen-Igaku 12(4): 175-180 1973
(受付:1979年10月25日)
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