ピーエスの取り組み - 学術論文

8.7314 ダイコクネズミのDMBA乳癌に対する重合ゼラチンの影響

榎木義祐(会員)  西里 枝久子(会員外) 中田高秀(会員外)

医学と生物学 第87巻第6号 1973年12月10日

我々は1-3)さきにその免疫の解析から細菌菌体成分やゼラチン、重合ゼラチンおよびその近縁物質の投与によって、ハツカネ ズミのEhrlich 癌移植、Sarcoma 180および同系皮膚移植に対する特異性の低い抗移植性の免疫を与えることができた。エールリッヒ癌は各系統のハツカネズミに植えつがれてきて、免疫現象 によって拒絶されることなく移植可能であり、担癌状態を任意に作り得る故に同種、あるいは自己種の組織とみなされ、特発性の癌の研究モデルとなっている が、一たびエールリッヒ癌に対して抗移植性の免疫を作ってみると上述の免疫現象がエールリッヒ癌が原発性のものではなくて、やはり移植癌であるがための結 果であるかどうか、すなわち発癌剤を使ってその個体より生じた原発性の癌細胞に対しても同様の免疫現象が得られるかどうかという疑問が生ずる。そこで発癌 剤DMBAによるダイコクネズミの乳癌を用いて実験した。

方法と結果

6週のSD系雌ダイコクネズミにゴマ油に溶かした9,10-Dimethyl 1,2-Benzanthracene 10 mg を7日間隔で計2回経口管投与すると2-3 ケ月後に60%に乳癌このほか耳管癌、白血病、線維腫、腺腫等を加えて80%の発癌を見るのが常である。DMBA投与前に酸性重合ゼラチン1%水溶液2 mlを7日間隔計7回皮下注射した7匹には発癌を見なかった(0%)。まずDMBAを投与して後に同様条件で計7回皮下注射した群は5匹中2匹に乳癌の発 生を見た(40%)。DMBA投与の前後に分けて注射を行った群では4匹中1匹(25%)乳癌の発生を見た。DMBA投与のみの対照群では6匹中3匹 (50%)に乳癌の発生を見た。

考察

重合ゼラチンの投与によってDMBA乳癌の発生率が低下した。重合ゼラチン投与による免疫機転の変化がDMBAによる発癌の機転に作用するのか、発 癌の機転には変化はないがその後の担癌状態の極めて初期に前述の抗移植性の免疫によって拒絶されるのかどうかをこれだけでただちに結論することはできない が、重合ゼラチンの投与はDMBA投与の後にするよりも前に投与する方が有効であったのでその効果は単なる薬理効果によるものではないと考えられる。

  1. 榎木義祐:ハツカネズミの移植癌に対するゼラチンならびにその重合物による抗移植性の免疫.本誌 82(2): 81-83 1971
  2. 榎木義祐,中田高秀,西里枝久子: Ehrlich腹水癌における実験的免疫現象.本誌87(5): 311-312 1973
  3. 榎木義祐,西里枝久子,中田高秀: ハツカネズミがEhrlich癌に対して実験的獲得性に抗移植性の免疫を作る現象に与える各種マクロファージ誘発物質の免疫誘導能力の比較.本誌 87(5): 313-314 1973
(受付:1973年8月10日)
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