ピーエスの取り組み - 学術論文

2.6150 実験的ウサギ胃潰瘍

榎木義祐

医学と生物学 第70巻第4号 1965年4月10日

Karsnerら1) は、Shwartzman反応の正規な術式によってウサギの胃にShwartzman反応を起こさせようとしたが、皮内ほど強く起こらず、また、胃潰瘍は できなかった。筆者はShwartzman型反応によって定型的なウサギ胃潰瘍を作ることが出来たので報告する。

実験方法ならびに結果

皮下ならびに臓器の任意の部分にShwartzman型反応をおこすためには、準備注射にadjuvantを併用すること、静脈内に内毒素の注射を行って から後に、局所に惹起注射をおこなうという正規のShwartzman反応に比して逆の術式2)によって準備局所から脈管内に吸収せられた極微量の内毒素 によって起こるGross-緒方の効果をさけることなどが必要と考えられた。
Freundのadjuvantに生成内毒素を混じてウサギの皮内に準備注射を行ない、24時間後に正規な術式によって惹起注射を行なったが Shwartzman反応は陰性に終わった。ゲラチン、アラビアゴム、可溶性澱粉、カルボキシメチルセルロースの1%水溶液、寒天の0.1%水溶液を adjuvantとして、精製内毒素を用いてShwartzman反応の正規な術式および前記の逆の術式を用いてウサギの皮下において Shwartzman反応を行なったが、効果は十分ではなかった。意外なことに、精製内毒素とadjuvantを用いたよりも、60 °C30分死菌菌体を局所に用いた方が、皮下の反応が強く起った。死菌菌体は内毒素活性とadjuvant効果を併せもつものであると理解した。
ウサギを全身麻酔下で開腹し,漿膜を通して細い注射針を用いて正確に胃のmusculosubmucosa にE. colii死菌(2mg/ml)生理食塩水浮遊液0.25mlを注入し、 24時間後正規な Shwartzman 反応の術式のとおり、50γの精製内毒素の静脈内注射を行った。また局所と全身の処置を時間的に逆に行う前記の術式によっても実験した。
死菌菌体を胃のmusculosubmucosa に注入し、24時間後正規なShwartzman 反応の術式のとおり精製内毒素を静脈内注射し、さらに24時間後開腹して調べた結果、各所の局所に出血壊死がみられ、1/3例には肉眼的、組織学的に定型 的な胃潰瘍がみられた。浮腫、出血、フィブリノイド変性が広くみられ、粘膜筋板の硝子化、筋、漿膜に細胞浸潤がみられた。潰瘍の最大のものは直径8mmで あった。胃粘膜皺壁集中を認めた例はなかった。漿膜への穿孔や穿通を起こした例はなかった。局所と全身の処置を時間的に逆にしても同様の結果が得られた。 死菌菌体を漿膜下に注入して同様実験したが、決して出血や潰瘍を作ることはなかった。菌体に代わって精製内毒素を前記水溶性物質に混じって胃の musculosubmucosa に注入して同様実験したが、出血はみられたが、潰瘍に至らなかった。静脈内注射をともなわない局所注射だけでは肉眼的に大きな障害はみられなかった。
人間の胃潰瘍においてもアレルギーがその成因となり、またきわめて短時日のうちに発生するものも存在するであろうと想像する。

この要旨は第11回細菌毒素シンポジウム、第14回日本アレルギー学会総会において発表した。
御校閲を賜った山中教授に感謝を捧げる。組織標本に関して山口医科大学細川教授、山下助教授の助力を得たので、謝意を表す。

English Title for NO.6150:Experimental gastric ulcer in the rabbit
Yoshisuke Enoki [Department of Microbislogy,Osaka Medical College,Takatsuki]Medicine and Biology.
70:April,10,1965.

  1. H. K. Karsner et al.: Proc Soc Exp Biol Med 29: 319 1931.
  2. 藤沢通明:仁泉医学 10(2): 108 1960
(受付: 1965年1月27日)
前の記事 コラム一覧へ戻る 次の記事
トップ