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コレステロール

その120.悪玉も善玉もない! 「コレステロールは高すぎず、低すぎず」 が長寿の秘訣

学術室 水谷 裕之

 血液検査の結果で、誰もが気にしたことのあるLDLコレステロール。数値が高いと動脈硬化を起こす張本人かの如く「悪者」扱いされていて、実際にそう思っている人も多いはず。しかし、コレステロールは私たちの生命維持に欠かせない重要な役割を担っていて、身体の細胞膜の主要な構成成分であり、脳や肝臓、神経組織などに多く分布しています。また、コレステロールはホルモン(男性・女性ホルモンなど)やビタミンD、脂肪の吸収に欠かせない胆汁酸の原料となります。もし、コレステロールが足りなくなると血管の細胞はもろくなって脳出血が起こりやすくなったり、免疫の働きが低下して細菌などに感染しやすくなったりします。
 私たちの細胞は常に新しく入れ替わっているのでコレステロールは欠かせない成分であり、不足しないように主に肝臓などの臓器で作られています。コレステロール値が高いという理由で「コレステロールを多く含む食品」を避ける人もいますが、食事で摂ったコレステロールが直接血液中のコレステロールを上昇させるわけではありません。コレステロールの摂取量が多いと体内で作る量を減らし、反対に少ないと作る量を増やすように調節されているからです。
 そして、体内で作られたコレステロールは肝臓から全身へと運ばれていきます。コレステロールは「あぶら」なので水分である血液中をスムーズに移動できず、水と親和性のあるたんぱく質と結合します。コレステロールを運ぶ時にはたんぱく質の比率が少ないLDL(低比重リポタンパク)コレステロール、全身の各細胞からあまったコレステロールを回収して肝臓に戻す時にはたんぱく質の比率が高いHDL(高比重リポタンパク)コレステロールがその役割をしています。人類は歴史上、飽食の経験がほとんどなく飢餓の時代が長く続いた結果、大切なコレステロールを無駄なく再利用する回収システムが身体の中に備わっています。このような生命現象において、LDLを悪玉、HDLを善玉と区別するのはおかしな話です。
 では、何が原因でLDLコレステロール値は高くなるのでしょうか?主な原因は過食(脂質・糖質の過剰摂取)や運動不足、過度の飲酒、喫煙があげられます。つまり、LDLコレステロール値を下げるのであれば、まず自分自身で生活習慣を改善することです。食事では魚を中心とした伝統的な日本食を意識して、バランスの良い食事を摂ること。余分なコレステロールの排泄を促す食物繊維の多い食品や、血液をサラサラにする青魚やニンニクなどを取り入れるのも効果的です。
 最近ではLDLコレステロールよりも注意の必要な「レムナントコレステロール」の存在が指摘されています。レムナントとは、血液中にある脂肪分が分解された代謝物で"残り屑(くず)"のようなものです。異物としてマクロファージが取り込んで血管壁に沈着し、動脈硬化を起こす原因と考えられています。中性脂肪が高く、HDLコレステロールの低い人に多く、さらに糖尿病の人にはその傾向が強くみられます。血液検査のLDLとHDLを合計しても総コレステロールより低い数値になりますが、この総コレステロールとの差の多くがレムナントとみなされています。また、LDLコレステロールの中でも粒子が小さくなる小型化LDLが増えると血管壁に入りやすくなり、レムナントと同様に動脈硬化の引き金となります。この小型化LDLも中性脂肪が高く、HDLコレステロールの低い人に多くみられます。私たちが動脈硬化を予防するにはLDLコレステロールだけを注視するのでなく、メタボリックシンドロームの診断基準でもあるHDLコレステロールや中性脂肪、血糖値、血圧などとも照らし合わせて、総合的に生活スタイルを見直していく必要があります。
 コレステロールは身体に重要な成分であり「コレステロール値が高いと日本では総死亡率が低下する」という報告がある一方、「コレステロールと動脈性硬化性疾患の発症との関係は明らかである」という報告もあります。相反する議論はありますが、「コレステロール値は高すぎず、低すぎず」が長寿の秘訣であることは間違いないはずです。

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